2018年3月15日、一般の方が利用できないTOTOお風呂ランドを体験出来ると伺い、北九州市にあるTOTOミュージアムに来ていた。 TOTOと言えば、日本ではトイレ、洗面器などの衛生陶器で約6割のシェアがあり第1位を誇る会社である。今回は工場見学も出来ると言うことで期待に胸を膨らませていた。

まず目を引いたのは、「水滴」をイメージした柔らかなフォルムの建物。「水滴」のコンセプトに拘り、随所にそれを表現してあるのが、何とも印象的だった。

隣接する建物は、屋上を緑化し「緑豊かな大地」を表現している。
【敷地面積】 148.716㎡(東京ドーム 3.2個) 、 【従業員】 3,445名
ここ「本社・小倉第一工場」内に、TOTOミュージアムは創立100周年記念事業として開設された。 建築デザインを通して、地球の毎日に潤いをもたらす環境つくりに貢献したい。 そんなTOTOの想いを形にしたこの建物は、環境配慮型施設になっていると言う。
水、熱、電力、素材、緑、長持ち、空気・・・地球と共存する、技術が光っていた。 水まわりからの環境貢献に全力を注ぐ

設計・・・梓設計 施工・・・鹿島建設
TOTOのルーツは1876年に創立された貿易会社「森村組」までさかのぼる。 貿易業界の草分けともいうべき「森村組」は、一業一社の精神で良品主義を貫き、食器や衛生陶器等の事業を分離して発展してきた。
様々な展示品を見ながらTOTOの歴史に触れていく内に、耳に入ってきた白磁の陶器。 そこで、思い描いたのは故郷のことだった。
私の故郷の佐賀県有田町は、やきものの町として有名だ。その歴史は古く、1616年に朝鮮人陶工 李参平(リ・サンペイ)によって陶石が発見され、日本で初めて磁器が焼かれた場所である。
左が、日本陶器(現ノリタケカンパニーリミテド)が初めて成功した純白のディナーセット。右が江戸時代から続く有田焼の老舗 香蘭社のペア碗皿。
比べてみてどうだろう?似ていると思いませんか? このディナーセットを見た瞬間に、私は無知で知らないけど、もしかして有田が関わっているのではないかと思えてならなかった。
1904年、日本陶器合名会社 (のち日本陶器(株)、現在(株)ノリタケカンパニーリミテド)が森村組の創立者らによって設立されてから、 1917年に衛生陶器部門を分離して東洋陶器(株)を経て、現在のTOTO(株)に至っている。
特に良品と均質に拘り、粗製乱造は良心が許さない。と戦時中にも関わらず技術者としての信念を曲げなかった、5代目社長 江副孫右衛門は、 社内にもこの信念を厳しく求めることで、再建へと導いたキーパーソンだ。
まさに、江副孫右衛門が有田出身の方だった。彼こそが、初めて純白のディナーセットを成功に導いた人物だと言う。
トイレが出来るまでの工程が、成型→乾燥→施釉(うわぐすりをかける)→本焼き の順と工場で説明をうけた。 有田焼が出来るまでの大体の工程が、成形→乾燥→素焼→. 絵付け・施釉 →本焼き の順である。
工場では、温度や湿度を調整し、粘土が乾燥しないように調整されていただけではなく、 乾燥後、本焼き後、サイズが小さくなることを考慮して、最終的に決まったサイズに焼きあがるように 【5代目社長 江副孫右衛門】 細かい曲線までも計算しつくされていた。まさに技術の成せる技だと思った。
有田の焼き物は、一つ一つ手造りで作る。有田で育った子供は、毎年図工の時間で必ず食器を作るから、大体の作り方はみんな知っている。 私も毎年焼き物を作っていた。汚れることが嫌で焼き物造りが大嫌いだったが、出来上がった食器を見ると嬉しいものだった。 土を練り、ろくろを回し、均一に丁寧に、薄くだけど薄すぎず、一つ一つ・・・。窯で焼いた時に、ひびや割れが少しでもあると割れてしまう。 大きかった焼き物が、小さく焼き上がり、食器としての価値がなくなるものもある。
そんな経験をして育ってきた私は、当時の技術で均質な物を作ることがどんなに大変なことだったか・・・。と考えた。 江副孫右衛門は、窯元で生まれたそうだ。父親の職人技を近くで見て育ち、ご本人も職人として育ったからこそなのかもしれない。
江副孫右衛門が制定した「愛業至誠」をテーマとした社是の中に、「良品と均質」と言う言葉がある。 まさに江副孫右衛門が曲げなかった技術者の信念のままの言葉だと思う。
「良品と均質」「奉仕と信用」「協力と発展」を3本柱とする社是は、現TOTOの社是にもなっている。 月日が経ってもいつの時代でも、技術者が忘れてはいけない受継がれてきた想い。
今回の研修は、単純にお風呂に入って、TOTOの新しい商品に触れて帰るものと思っていた。
ミュージアム自体の建築としての価値や技術とデザイン。TOTOの歴史と故郷有田の焼き物の技術。そして、江副孫右衛門。 見応え十分であった。
私は建築に携わる者だ。 私自身は数あるお家の一つの失敗かもしれない。だが、お客様にとっては一生で一度のお家なのだ。
当たり前だけど、忘れがちな技術者として大切な想いを、故郷の大先輩に教えられた気がした。
でんホーム株式会社 設計 田口 絵理
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